ISIZE【JAZZ】「連載 天才アケタ流!」
ジャズはクラシックの歴史を再びくり返す!!
第1回、バッハはジャズマン!?
 ジャズはクラシックの歴史を再びくり返している。今世紀に入り録音文化が芽ばえ、即興演奏を記録出来るようになった。そこで即興の申し子と言えるジャズが一気に胎動してきた。と同時に、クラシックにおける作曲文化が現代音楽の作曲面の一部袋小路とともに、勢いを失ってくる。
 作曲は元々クラシックの時代にあったわけで、作曲の原型は必ずや即興にあったはずだ(ちなみにジャズマンは即興作曲家なのだ)。ただ記録法が録音ではなく楽譜であったため、作曲家は素晴らしい即興を忠実に譜面にしたくえらい苦労したわけ。ベートーベンが毎月2時間にも及ぶ即興演奏会を開いた、というのを聞いたことがあり、大の即興家だったらしい。それが作曲の原点になったのだろう。バッハが多作家だったのは即興を記録させたからだということも聞いており、自分の即興演奏を6人くらいの弟子に同時に聴きながら速譜させ、その中から良いものを選んだというもの。バッハがもし現代に生きていたら必ずやジャズマンになっていただろうといのは定説で、バッハはあの頭でジャズをやったのだろう。この説を決定づけたクラシックのアメリカ人ピアニストがグレン・グールドだ。
 『ゴールドベルク変奏曲』などまさにジャズだ。専門的に言うとジャズの4ビートにおいてはスウィング感とともに8分音符の連符が、付点8分と16分音符の連結となってきて、いわゆるシンコペーション(アクセントの位置が変わっていく手法)が始まってしまう。というよりバッハの演奏はスウィング感から、当時から付点8分+16分音符のシンコペ(シンコペーションをジャズ界ではこう約す!)となっていたと思われ(またこの方法論もジャズに限りなく近い!)、いちいちこれを記譜していたらシンコペだらけで楽譜が複雑になるから、結局8分音符で表してしまったのだ。
 それをまさに8分音符の連符が正しいとまともにウのみしてしまったのが、クラシック演奏専門家たちの長年の功罪。そしてそのまま100年、200年が去ってしまって、グールドが出現。シンコペで演奏してしまったら皆それはバッハじゃないと怒った! ガイキチ扱いした。しかしグールドが正しいバッハ解釈だったのだ。彼が死んで今やバッハの正統といえばグールドなのだ!
 このようにクラシック界において作曲家と演奏家というのは下手したら水と油なのだ。バッハが現代に生きていたら必ずやジャズマンとなって酒、麻薬におぼれ……嘘々。それを証明するジャズ作品に、ジャズ・ピアノ最大の巨人のひとりレニー・トリスターノの『ニュー・トリスターノ』というソロ・ピアノの傑作がある。ジャズ初めての人にはちょっと重いかも知れないが、その恰好良さとバッハ的なものは理解、もしくは感動して頂けると思う。僕のピアノもトリスターノの影響大きく、時にバッハ的とよく言われる、というのは言いすぎで言われたい。バッハ以前は踊りと即興を中心にジャズ的時代があったと言われ、何しろバッハの例をみても分かるとおり、ジャズ・即興・録音文化は作曲に代わり即興におけるクラシックの歴史を再びくり返し始めるのである。 〜つづく〜 H11年 6月号