ISIZE【JAZZ】「連載 天才アケタ流!」
ジャズはクラシックの歴史を再びくり返す!!
第5回、シェーンベルクとセシル・テイラーは同じ手法の御法度やぶり!?
 (あくまでこの連載は天才アケタ流の独断! そこんところヨロシクお願いします!)

 
 アケタの独断と偏見。クラシックではワーグナー、マーラー、ドビュッシー、シェーンベルク……と時代を追って調性が崩壊してきます。しかし、ジャズではチャーリー・パーカー(as)のモーツァルト、オーネット・コールマン(as)のマーラー、セシル・テイラー(p)のシェーンベルク、ハービー・ハンコック(p)のドビュッシー、ジョン・コルトレーン(ts)のワーグナー、と順が必ずしもクラシックと一致していないのです。
 それは即興主体のジャズという形態が、必ずしもメロディや標題を重視するとは限らず、こうなったと言えるかもしれません。むしろ、ジャズよりもロックの方が、標題を重視するロマン派的なるものが初期から集中していたといえます。
 先号のマーラーとオーネット・コールマン(as,tp,vln)の表現主義では、例えば2小節や3小節単位でメロディが転調していってしまうため、譜面の頭に調号(全体のキー)がつけられなくなってきました。
 
 シェーンベルクも初期はこの後期ロマン派だったと思うのですが、技術革新という精神のもとメロディックなものを省こうと、つまりマーラーのメロディックな部分部分にキー(調性)があるということをも否定してしまうのです。これはイコール半音階(クロマティック)主義(現代音楽)に突入、ということしかないわけです。
 半音階といえば火曜サスペンス劇場、殺人シーンのバック音楽、と相場が決まっています。しかしこの完全破壊に、音楽というジャンルそのものの崩壊(御法度やぶり、禁じ手)を恐れたシェーンベルクは「ぎりぎりでルールを作っておかないと」という焦燥にかられ、12音主義を提唱します。
 これは何てことない、半音階において一度使った音は他の11音を使い終わるまでは使ってはいけない、というもの。つまりドの音を一度使ったら残りのド♯、レ、レ♯〜シの11音を使い終わるまで再び使うことは禁じる、というものです。しかしこれは音楽的にあまり意味がない! 聴いてる人にとっては、その12音主義ルールを使ってるか使ってないかまったく分からんのです。
 すべて半音階はサスペンスに聴こえてしまうのです。シェーンベルクの偉大さは、まずは半音階主義に突入できたという勇気でしょう。
 
 ドレミファの西洋音階におけるすべての手法が出つくしたといえる現代において、あくまで「モーツァルト的」を大中心に「ワーグナー的」も「マーラー的」も人間の喜怒哀楽等々、いろんな表情を表わす手法にすぎなかったわけで、「シェーンベルク的」半音階不協和音の世界も怒りなどを表わすのに必然。しかし、それはしょっちゅういるものではなく、音楽的にはどんづまりの袋小路。
 そのためシェーンベルクは、晩年ロマン派に戻ってしまったとのことです。というより、前記のように12音主義は表情の中の一部とするよう変わっていったのでしょう。
 
 即興(ジャズ)におけるセシル・テイラー(p)は、その現代音楽からジャズに来た人で(ちなみにC.テイラーとO.コールマンからフリー・ジャズが始まった、といわれている)、まさにシェーンベルクの即興版。だから一般の人には(いや僕でも)、シェーンベルクのピアノ曲とテイラーの即興との聴き分け、判別がきかないことでしょう。
 半音階はメロディックでないため一聴同じに聴こえちゃうのですが、よく聴くとテイラーは呼吸やその他、もの凄い個性で偉大なのです。
 
 シェーンベルクは録音文化のない大昔の人のため、当然即興を譜面に固定する作業をしてたわけで、10分くらいの即興を5年くらいかけ譜面に固定化したという話を聞いたことがあります。それが録音時代のテイラーは10分で終了してしまうのですが、結局両方聴くとどっちがどっちか分からん、可哀想に! そしてテイラーはこの半音主義を4ビートの、しかもジャズ・スタンダード・ナンバーにぶっつけたから面白いのです。その代表作がデビュー直後の『ニューポートのC.テイラー』(Verve/ポリドール)。
 
 この半音階主義をスタンダード・ナンバーにぶっつける形式を、より高度に発展させた大天才がエリック・ドルフィー(as,b-cl,fl;注3)なのです!
 スタンダードのコード物=モーツァルトと考えると、ドルフィーはシェーンベルクをモーツァルトにぶっつけたのです。当時このアンバランスがいかに新鮮だったことか。ジャズ史上最大のイマジネーションは断突ドルフィー! 次回はそのエリック・ドルフィーに迫ります。
 
 しかし、ジャズは一般に難しいと言われがちですが、諸君楽しんでいただけてるかなー?
 アケタもまだまだがんばります!
〜つづく〜 H11年10月号